1. HOME
  2. レビュー&特集
  3. 奄美の島唄をオーケストラアレンジした「ベルスーズ奄美2018」を192-24ハイレゾサラウンド収録

レビュー&特集

Review&Special

奄美の島唄をオーケストラアレンジした「ベルスーズ奄美2018」を192-24ハイレゾサラウンド収録

2018年11月18日、奄美文化センターで「山畑馨・交響譚詩ベルスーズ奄美2018」が開催され、レコーディングを任されることになった。ベルスーズ奄美は、奄美大島出身の「山畑馨」さんが作曲したオーケストラ楽曲で、今回は約50名のオーケストラと約100名の合唱、そしてソリストが奄美の伝統文化「島唄」を歌うという構成になっている。

ベルスーズ奄美2018オーケストラ練習風景
実は、このベルスーズオーケストラが演奏する演目の前に「トリオさくら」というストリングスカルテットが演奏したり、HNK大河ドラマ「西郷どん」のオープニングテーマを唄った「里アンナ」さんをゲストに迎えて、島唄を披露してもらったり、実際に「西郷どん」をオーケストラで歌ってもらったりと、本編が始まる前のプログラムがかなり豊富であった。
このことから、ステージ上では大掛かりなセットチェンジが発生することは事前にわかっていたので、各楽器ごとにマイクを設置するスポットマイク方式は不可能と判断。ワンポイントマイク方式を採用し、メインマイクから10㍍後方にサラウンドマイクをセッティングして収録することにした。

メインマイクはSANKEN CMS-2 周波数特性は非常にフラット、しかし、セオリーと言われている指揮者3㍍後方での収音は各楽器の音量バランスが悪いと感じた。つまり打楽器やトランペットなど、音圧がある楽器の音が直接マイクに入ってしまい、音が立ちすぎてしまうのだ。これに対応すべく、実際に自分の耳で確認しながら、いい音が集まるスポットを探ることにした。結果的に楽器の音が反響版に反射して集まるポイントは、指揮者より約5㍍後方だということがわかった。この位置であればストリングスなどがホールの反響によって倍音をはらみ、打楽器などとうまく調和してくれる。それでいて他の楽器に埋もれることなく、きちんとハーモニーを主張してくれるのだ。

ベルスーズ奄美周波数グラフ
ベルスーズ奄美周波数グラフ2

サラウンドマイクは、ホールの残響が一番豊かな場所、つまりスイートスポットを探した結果、CMS-2の後方約10㍍であると判断。結果的にホールの中央通路付近になったので、観客の拍手の臨場感も考慮して、左右の間隔をあけてセッティングすることにした。具体的には下図のように、中央から110度あけてセッティング、こうすることで観客席8~10列中央席で聞いているような響きが再現できると考えた。

ステージイメージ
そもそも、劇場で行われるオーケストラの収録は、ホールそのものの反響も含めて楽曲と考えるので、響きそのものがナチュラルに聞こえる4ch収録でマイキングした。つまり、センターチャンネルやLFEを必要としない。実際、オーケストラの4チャンネル収録を推奨する方も多く、私も4chサラウンド収録の考え方は理にかなっていると思っている。
しかし、今回の「ベルスーズ奄美」は、もともと島唄という奄美群島で歌われてきた伝統民謡をモチーフにオーケストラアレンジされたものなのだ。よって、唄者とよばるソリストが存在し、オーケストラに合わせて唄を奏でる。
よって、今回の収録は、オーケストラ部分を4chで収録し、センターチャンネルに、唄者と三線(三味線)を割り当てることにした。
ソリスト用マイクはAKG C451Bが中心「永良部の子守唄」という楽曲にいたっては、唄い手が三人にもおよぶので、4chオーケストラになじむようバランスをとった。
そのほか、最も心配したのは三線である。三線は弦楽器のイメージが強いが、実はボディに張られた革にバチを当てることで、独特の破裂音と弦の響きを同時に奏でる楽器なだ。これがレコーディングエンジニアにとっては大問題で、破裂音によって弦の響きや、最悪ヴォーカルまでもがクリップしてしまうこともある。
ベルスーズ奄美2018マイク

universal audio APOLLO

今回の「ベルスーズ奄美」を収録したオーディオインターフェイスはuniversal audio APOLLO。
サンプリング周波数は192khz ビットレート24bitのハイレゾ・サラウンド収録で、三線の破裂音を抑える必要があったので、すべての収録チャンネルにTeletronixLA-2Aをあて、かけ録りした。

TeletronixLA-2Aは、余計なハーモニック・ディストーションを増やすことなくゲインリダクションし、狙い通り三線のバチの破裂音を自然に抑え込んでくれた。結果的にオーケストラ全体の響きを損なうことなく、心地いい劇場のホール感を収録することができた。
TeletronixLA-2A

Cubase9.5

私が使用するDAWソフトはCubase9.5。音の編集だけでなく、映像編集のMAにも使用できるので長年愛用している。
今回の192Khz /24bit収録も、ワークステーションを会場に持ち込みで、マルチトラックレコーディング、特にトラブルもなく安定したパフォーマンスを発揮してくれた。
オーケストラは音量と音圧のダイナミックレンジが広いので、響きを損なうことなくマスタリングするために細心の注意を払った。

CD書き出し
Cubaseにて編集後、CDに書きだしたところ困ったことが起こった。192KhzのデータをCD用の44.1Khz/16bitに書き出すと、途端に劇場のホール感が損なわれてしまうのだ。DAWソフトで聞いている音の質感ができるだけ残るように、細かな調整を行いつつ、何度もCDに書き出してはカーテストとラジカセテストを繰り返すことになった。

気が付くと試作品のNGディスクが散乱、、、失敗作の皿を割る陶芸家の気持ちがわかる気がした。

最終的に出来上がった「山畑馨・交響譚詩ベルスーズ奄美2018」のマスターCD。CDはステレオなのでサラウンドで聞くことができないのは非常に残念だが、記録用として「ハイレゾCD」も制作しておこうと思う。また、別で依頼を受けた動画製作だが、せっかくなので5.1Chサラウンドで音を構成し、この音データを使ってBlu-rayやDVDに対応しようと思っている。
音を聞けば、ベルスーズ公演の興奮が蘇るようなクオリティに迫ることができたと思うので、是非たくさんの人に聞いていただきたい。

常田 圭一

客席